2007年08月07日
蟹を飼う
皆さんは、蟹を飼ったことがありますか?
私は、ありません。
しかし、蟹を飼っていた人は知っております。
随分と昔のことになりますが、私、上野のアメヤ横丁で5年ばかり働いておりました。
盛んに旅をしていた頃のことですから、幾らかの金が貯まっては旅に出て、失くなってはまた仕事に戻り、そんな繰り返しをしておりました。
ですから、5年と言ってもこれは足掛けのことでして、正味、働いていたのは2年くらいであったと思います。
ガート下の果物屋で、一本百円、カットフルーツの、パイナップルの頭をひたすらもいでおりました。
この店に、カッチャンというおじさんがおりました。
このおじさん、お酒が大好きでした。
アルコール中毒で、体を壊してしばらく入院していたほどです。
事実、私が初めてカッチャンと会ったのは、その店に出入りし始めて、3年くらい後のことでした。
タイムカードには名前があるけれど、一体誰だろう?というのが、カッチャンでした。
カッチャンは、本当に、牛乳瓶の底のような眼鏡をかけていて、その眼鏡のせいで、目玉がとても大きく見えます。
いがぐり頭のずんぐりむっくりで、しかし、その売り声は極めて陽気なのでした。
「いらっちゃい、いらっちゃい」なんて言います。
これも後々知ったことなのですが、カッチャンのこの陽気な性格は、朝から常に酒を飲んでいるからだったのです。
ある時、病院の検査で、2日3日お酒を抜かねばならず、この時のカッチャン、まるで別人でした。
ドヨーンと、下ばかり向いておりました。
で、この検査の結果が、よくなかったんですね。
カッチャン、なにせ体に何かの管が入っているような人ですから、お酒は絶対にご法度です。
カッチャンが蟹を飼い始めたのは、それから2週間ばかり経ってのことでした。
ある日、カッチャンがホースを引っ張り出してきまして、ジャバジャバと、自分のズック靴を洗い始めました。
昼日中の、勿論、店の中でのことですから、どうしたの?カッチャン、と尋ねますと、カッチャン、靴が泥だらけだ、と言うんです。
カッチャンは、年の割には可愛い白いズック靴を履いておりまして、これ、どう見ても泥になんかは汚れておりません。
一体どうしたことだろうと見ておりますと、カッチャン、今度は靴の中を手でほじくり始めました。
カッチャン、靴の中に蟹を飼っていると、言うんです。
その後のカッチャンは、どんどんとおかしくなり始めまして、その内、店の棚の中にお客さんが隠れている、なんてことまで言い出しました。
突然領収書を書き始めては、いるはずもないお客さんを探して、電柱の影を覗いたりします。
私、さすがに、ゾッとしました。
カッチャンは、営業中に倒れて、そのままクビとなってしまいました。
この店に、20年以上も勤めたのだといいます。
店長も、人情があったのだと、思います。
カッチャンが倒れた時に踏み潰した赤い苺、私、今でも時折思い出します。
そんなカッチャンでしたが、閉店後、最後に道路の掃除をするのですが、その竹箒の使い方、しゅうう、しゅうう、と力なく、とても優しくて、私、その音を聞くのが大好きでありました。
私は、ありません。
しかし、蟹を飼っていた人は知っております。
随分と昔のことになりますが、私、上野のアメヤ横丁で5年ばかり働いておりました。
盛んに旅をしていた頃のことですから、幾らかの金が貯まっては旅に出て、失くなってはまた仕事に戻り、そんな繰り返しをしておりました。
ですから、5年と言ってもこれは足掛けのことでして、正味、働いていたのは2年くらいであったと思います。
ガート下の果物屋で、一本百円、カットフルーツの、パイナップルの頭をひたすらもいでおりました。
この店に、カッチャンというおじさんがおりました。
このおじさん、お酒が大好きでした。
アルコール中毒で、体を壊してしばらく入院していたほどです。
事実、私が初めてカッチャンと会ったのは、その店に出入りし始めて、3年くらい後のことでした。
タイムカードには名前があるけれど、一体誰だろう?というのが、カッチャンでした。
カッチャンは、本当に、牛乳瓶の底のような眼鏡をかけていて、その眼鏡のせいで、目玉がとても大きく見えます。
いがぐり頭のずんぐりむっくりで、しかし、その売り声は極めて陽気なのでした。
「いらっちゃい、いらっちゃい」なんて言います。
これも後々知ったことなのですが、カッチャンのこの陽気な性格は、朝から常に酒を飲んでいるからだったのです。
ある時、病院の検査で、2日3日お酒を抜かねばならず、この時のカッチャン、まるで別人でした。
ドヨーンと、下ばかり向いておりました。
で、この検査の結果が、よくなかったんですね。
カッチャン、なにせ体に何かの管が入っているような人ですから、お酒は絶対にご法度です。
カッチャンが蟹を飼い始めたのは、それから2週間ばかり経ってのことでした。
ある日、カッチャンがホースを引っ張り出してきまして、ジャバジャバと、自分のズック靴を洗い始めました。
昼日中の、勿論、店の中でのことですから、どうしたの?カッチャン、と尋ねますと、カッチャン、靴が泥だらけだ、と言うんです。
カッチャンは、年の割には可愛い白いズック靴を履いておりまして、これ、どう見ても泥になんかは汚れておりません。
一体どうしたことだろうと見ておりますと、カッチャン、今度は靴の中を手でほじくり始めました。
カッチャン、靴の中に蟹を飼っていると、言うんです。
その後のカッチャンは、どんどんとおかしくなり始めまして、その内、店の棚の中にお客さんが隠れている、なんてことまで言い出しました。
突然領収書を書き始めては、いるはずもないお客さんを探して、電柱の影を覗いたりします。
私、さすがに、ゾッとしました。
カッチャンは、営業中に倒れて、そのままクビとなってしまいました。
この店に、20年以上も勤めたのだといいます。
店長も、人情があったのだと、思います。
カッチャンが倒れた時に踏み潰した赤い苺、私、今でも時折思い出します。
そんなカッチャンでしたが、閉店後、最後に道路の掃除をするのですが、その竹箒の使い方、しゅうう、しゅうう、と力なく、とても優しくて、私、その音を聞くのが大好きでありました。
Posted by wajin at 23:34│Comments(0)│TrackBack(0)
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