2007年07月14日

渇く

 旅の仲間に、オーストラリアの砂漠をバイクで走ったという人がいます。
この人、途中で道に迷いまして、グルグルと、大変長い時間砂漠の中を走り回ったそうです。
 燃料の予備はあったそうですが、困ったことに水がない。
しかし、どれだけ行っても民家ひとつ現れず、目の前には、赤茶けた砂漠が広がるばかりだったそうです。

 私も、これと似たような経験をしております。
 自転車で山中湖に行きまして、夏の暑い日でした、やはり水がなくなってしまったのです。
 自動販売機くらいはあるだろう、なんて考えたのが間違いでして、車もほとんど通らない山の中、
白っ茶けたアスファルトがだらだらと続いて、上り坂を押して歩く自転車はママチャリですから、これが非常に重たくて、蝉がワンワンと鳴いていました。
とにかく喉が、カラカラでした。

 しばらくすると何処からか、川の流れる音が聞こえてきました。
しかしこれ、空耳だったのかも知れません。
音のする見当には、黒々とした深い藪が広がるばかりです。

 と、唐突に、左手に工場らしき灰色の建物が現れまして、ここなら水道くらいはあるだろう、と俄かに元気が出ました。
 ところが、その正面玄関、そそり立つ黒い大きな鉄門には、これまた大きな南京錠が掛けられていて、どうやらこの工場、閉鎖しているらしいのでした。
 私、段々と、焦ってまいりました。

 オーストラリアの彼は、結局、夕方には無事に町に辿り着きました。
途中で標識を見つけたそうでして、その標識とは反対の道を行ったのが決め手だったそうです。
 標識が人を惑わす。
オーストラリアの砂漠では、よくあることなのだそうです。

 町に入って、水を飲むより先に、何故だか無性にアイスクリームが舐めたくなったそうです。
雑貨屋でバニラアイスを買いまして、これが、絶品だったと言います。
本当にうまかった、と言います。

 人間、本当にうまいものを食うとどうなると思う?
 泣くんだよ。
 俺、バニラアイスを食べてオイオイ泣いたよ。
 これ、本当でしょうか。

 山道で喉を涸らした私は、道路脇に側溝を見つけまして、重たい蓋をグイグイと、そこにサラサラと流れる、雨水でしょうか、一見透明できれいな水を、念のためタオルに浸しまして、ちゅうちゅうと、心置きなく吸ったのでした。
 この水、何の水だか知りませんが、本当においしかった。
 いつまでも吸い付いていたいくらい、おいしかった。

 人間、本当にうまい水を飲むとどうなると思いますか?
 腹が下るんです。
 私、その水を飲んで、数日お腹が下りました。
 これは、本当ですよ。


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