2008年06月20日

箱根のおじさん

 箱根に行っておりました。

 平日とはいえ、さすがは箱根、結構な賑わいでした。
特に湯本の駅前は、古くからの箱根の入り口、歴史ある温泉街と眺められました。
あれで車が少なければもっと良いのですが、実は私も、車で行ったのでした。

 やることがありませんから、うろうろと、色々なところに行きました。
 元来が時間潰しですから、何処に行き何をしようと、実は頓着がありません。
それでも、ある場所であるものを見て、あるものを食べたりするということは、家にいるよりも
よほど楽しいことなのです。

 赤ん坊を連れておりましたから、色々な人に声を掛けられました。
声を掛けてくる人は、当然、赤ん坊が好きな訳ですから、おしなべて好人物です。
 「かわいいねぇ」と言われれば、「そうでしょう」と答えます。ひとつも悪い気分はいたしません。
 
 「ひとさらいに気をつけて」
スーパーで出会ったおばさんは、そんなことを言いました。
 何でもない会話の中にも、人の暮らしって、垣間見えるものです。
このおばさんは、少し寂しげな人と目に映りました。

 静岡から箱根に入る入口に、小さな道の駅がありまして、さすがにグネグネと登って来ただけありまして、車を降りて、ヒュウと横切る冷たい風、半袖ではちょっと肌寒いようでした。
 一望する芦ノ湖の見晴らしも、一面のモヤに白い煙幕を眺めるようで、小さな食堂と小さな売店に
これといった用事もありませんから、自動販売機でお茶を買い、車に戻るその途中、駐車場である
おじさんに話し掛けられました。

 60代と見られる、白髪のおじさんです。
私の妻に、「赤ん坊の前でご主人の悪口を言っちゃ駄目だよ」と言います。
 「私はね、女房が赤ん坊の前であんまり私の悪口を言うものだから、この間ね、とうとう白衣を着た
男が3人家に現れて、何をするのかと思ったら、いきなり拘束されて、精神病院に入れられちゃった」
 「今も裁判で争っていてね。何もかも、みんな持っていかれちゃった」

 パッと見て、至って普通のおじさんです。
おしゃべりが好きそうな、人の良さそうなおじさんです。
 しかし、言っていることはまるでトンチンカンでして、私は、このおじさんが何を言っているのか、
終ぞ理解できませんでした。

 女房が子供の前で旦那を馬鹿にする。だから子供も父親を馬鹿にするようになる。
分からない話ではありませんが、「白衣の男」、「精神病院」、「裁判」となると、ちょっと尋常ではありません。このおじさん、車で旅して暮らしていると言っておりましたが、本当でしょうか?

 すべてがおじさんの妄想なのか、ひょっとしたら私が騙されているだけなのか、とにかく、とても優しそうなおじさんでした。袖触れ合うも他生の縁。どうぞ、お達者で。


 


 



 



 


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