2008年08月27日

川崎宿探し 前編

 急な仕事で、東京に出掛けておりました。
そのついでに、久し振りの友人に会おうと世田谷まで足を伸ばしました。

 あいにく降りだした夕雨のなか、友人の仕事終わりを待ちまして、商店街を随分とうろつきました。
古本屋で汚らしい文庫本を買って、喫茶店でコーヒーを飲み、それでも時間はなかなか過ぎないようでした。

 今夜はこの町に宿を取ろう、そう決めて、ようやく見つけたビジネスホテルの急な階段を上りますと、フロントに座る若者は、犬のような髪型をしておりました。
 「部屋は、空いていますか?」
 「満室です」
 「そうですか。この辺に、他に宿はありませんか」
 「さあ、知りません」

 小腹が減ったのでラーメン屋に入りますと、ちょうど店を閉める間際のようで、私が最後の客でした。ふた組いた先客は、いずれも近所の人間なのか、店主に馴れ馴れしい言葉をかけて、その内にいなくなりました。ひとり取り残された格好で、いつまでもズルズルとやっているのは申し訳ないようでしたが、それでも爪楊枝までしっかりと使って、
 「この辺に、宿はありませんかね」 
するとやっぱり、
 「さあ、知りません」
 外はもう暗くなりかけて、傘を買ったほうがよいかな、と思わせる雨立でした。

 面倒なことは先送らない方がよい。
しかし、先送れば某かの事情が変わって、その時にはさして面倒ではなくなっているかも知れない。
そんな理屈をこねまして、宿探しは、友人と飲んでからにしよう、と決めました。

 スーパーで買った惣菜を肴に、友人の家で大いに酒を飲みました。
家と言いましても、彼が暮らすのは4畳半ひと間のアパートですから、勿論、風呂もトイレもついてはおりません。それだって、泊まって泊まれぬことはないのですが、明日のことを考えれば、明日は私、午前中にもう一度仕事の打ち合わせをして、その足で、車を運転して伊豆まで帰らなくてはなりません。ですから今夜はどうしても、フカフカとしたベッドに身を沈め、十分に体を休めておきたい、そう考えました。年を重ねるということは、こうやって利口になっていくことなのだと思います。

 グニャグニャと歪み始めた部屋を出て、近くを走る大通りまで送ってもらい、首尾よくやって来たタクシーに乗り込んだのが、10時を回った頃でした。
 昼間の歩き過ぎがこたえたか、両の爪先がキュンキュンとつるようで、雨足はいよいよ激しく、ことは夕方よりも面倒な事態となってしまったようでした。
 

 

   

Posted by wajin at 12:15Comments(2)TrackBack(0)