2007年07月20日

キドガワ珍事

 先日、近所のおばちゃん連中が、1泊で温泉旅行に行ってきました。
 その土産話が大変面白かったので、ちょっと紹介いたします。

 まず何が面白かったかと申しますと、土産の饅頭をぶら下げて、やって来ました隣のおばちゃん、鬼怒川温泉のことを、キドガワ、キドガワ、と連発します。
 まあ、鬼怒川と言っているのは分かりますから、私も敢えて訂正はしませんけれど、ところが、会話の流れで、こちらがどうしても鬼怒川と言わねばならぬ、そんな状況がやって来ます。
 私、平気でキドガワ温泉と言います。
郷に入らば郷に従え。いずれの土地も、郷であります。
 
 しかし、こういう読み違い、覚え違い、よくあることです。

 先日、消防の寄り合いで、地上デジタル放送が話題になりました。
たまたま町で電器屋を営む人がおりまして、この人、大変まじめな顔をして、難しいことを色々と説明してくれます。説明してくれるのはよいのですが、残念なことに、アナログをアナグロ、アナグロって、言ってしまうのです。
アナグロ・・?
なんだかひねりがないようで恐縮ですが、黒い穴を連想させて、ちょっと卑猥です。

 ちなみに私は最近まで、セロハンテープのことを、セロテハンテープと呼んでおりました。
この余計なテ、一体何処から入り込んだのでしょうか。
また、私の妻は、タンクトップを、必ずタンプトックと言ってしまいます。

 で、キドガワ温泉。
 御一行、夕方には旅館に到着いたしました。
夕飯前に、早速ひとっ風呂浴びに行きまして、まあ、年寄り連中のことです、脱衣所でひとつ服を脱ぐにしたって、たいそうな時間が掛かります。
 ところがその内のひとり、これは話に聞けば成程な、この辺りでは若手と呼ばれる60代のおばちゃんが、ひとりぱっぱと裸になって、声高らかに、
「おっ先ぃー」
と、浴場のサッシをガララと開けたそうです。
 しかしこのおばちゃん、何を勘違いしたのか、その開けた扉はたった今、自分が開けて入ってきたばかりの入口の扉でして、つまりは、
「おっ先ぃー」
と、すっぽんぽんで宿の廊下に飛び出したのだというのです。

 ちょっと考えられないような方向音痴ですよね。異常です。
この時、廊下には、初老の男性がひとり居合わせたそうでして、このおじさん、さぞやびっくりしたでしょうね。
 
 おじさん、きっと誰かにこのことを、話しただろうなぁ。
酒の話に、もってこいだものなぁ。




   

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2007年07月14日

渇く

 旅の仲間に、オーストラリアの砂漠をバイクで走ったという人がいます。
この人、途中で道に迷いまして、グルグルと、大変長い時間砂漠の中を走り回ったそうです。
 燃料の予備はあったそうですが、困ったことに水がない。
しかし、どれだけ行っても民家ひとつ現れず、目の前には、赤茶けた砂漠が広がるばかりだったそうです。

 私も、これと似たような経験をしております。
 自転車で山中湖に行きまして、夏の暑い日でした、やはり水がなくなってしまったのです。
 自動販売機くらいはあるだろう、なんて考えたのが間違いでして、車もほとんど通らない山の中、
白っ茶けたアスファルトがだらだらと続いて、上り坂を押して歩く自転車はママチャリですから、これが非常に重たくて、蝉がワンワンと鳴いていました。
とにかく喉が、カラカラでした。

 しばらくすると何処からか、川の流れる音が聞こえてきました。
しかしこれ、空耳だったのかも知れません。
音のする見当には、黒々とした深い藪が広がるばかりです。

 と、唐突に、左手に工場らしき灰色の建物が現れまして、ここなら水道くらいはあるだろう、と俄かに元気が出ました。
 ところが、その正面玄関、そそり立つ黒い大きな鉄門には、これまた大きな南京錠が掛けられていて、どうやらこの工場、閉鎖しているらしいのでした。
 私、段々と、焦ってまいりました。

 オーストラリアの彼は、結局、夕方には無事に町に辿り着きました。
途中で標識を見つけたそうでして、その標識とは反対の道を行ったのが決め手だったそうです。
 標識が人を惑わす。
オーストラリアの砂漠では、よくあることなのだそうです。

 町に入って、水を飲むより先に、何故だか無性にアイスクリームが舐めたくなったそうです。
雑貨屋でバニラアイスを買いまして、これが、絶品だったと言います。
本当にうまかった、と言います。

 人間、本当にうまいものを食うとどうなると思う?
 泣くんだよ。
 俺、バニラアイスを食べてオイオイ泣いたよ。
 これ、本当でしょうか。

 山道で喉を涸らした私は、道路脇に側溝を見つけまして、重たい蓋をグイグイと、そこにサラサラと流れる、雨水でしょうか、一見透明できれいな水を、念のためタオルに浸しまして、ちゅうちゅうと、心置きなく吸ったのでした。
 この水、何の水だか知りませんが、本当においしかった。
 いつまでも吸い付いていたいくらい、おいしかった。

 人間、本当にうまい水を飲むとどうなると思いますか?
 腹が下るんです。
 私、その水を飲んで、数日お腹が下りました。
 これは、本当ですよ。  

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2007年07月07日

いいぞと思うこと 駅弁

 電車の中でものを食べる。
 まあ、電車にもよりますが、例えばそれが新幹線のような電車であれば、これは旅の楽しみ、駅弁は、断固食べるべきであります。
 ところが、普通の通勤電車となりますと、こういう電車が乗り入れるホームのキオスクには、駅弁なんて置いてありませんよね。勿論、車内販売のワゴンもやって来ませんから、これ、すなわち、食べるなよ、そういう電車じゃないんだぞ、そう言われているものと理解しなければいけません。
 しかし、それでも、電車の中でもぐもぐと何かを食べている人、いますね。

 私、ここ数年、電車に乗ることがほとんどなくなりましたから、昨今の通勤電車で一体何がこそこそと食べられているのか、その流行を知りません。
 しかし、これまでに目にした中では、カップラーメンを啜るおじさん、これが最も強烈でありました。
 フーフーと、実にうまそうにカップラーメンを啜って、混み合う暮れ時の車内、おじさんの周りだけが半円状にぽっかり空いて、これ、カップヌードルのカレー味でした。
カレーの匂いがぷんぷんと、実にスパイシー、かつ挑戦的でありました。
 人目も何も気にしない、食いたいときに食いたいものを食う。
豪傑です。たいしたものだと思います。

 しかし、上には上がいるものでして、私の友人は、電車の中で蟹を食べているおじさんを見たといいます。勿論これ、沢蟹じゃあございませんよ。タラバ、とにかくでかい奴。
 ガタゴトと揺れる車内、見て見ぬ振りの人の壁。言うなれば、スポットライトを浴びた晴れ舞台、そこでバリバリと、友人曰く一心不乱に、ビニール袋に入った蟹をむさぼり食べていたそうです。
ホームレスのような風体をしていたといいます。
 そのおじさん、友人よりも先に電車を降りたそうで、立ち去ったその後には、食い散らかした赤い蟹の殻の山。この友人、不思議と無常という言葉が頭に浮かんだそうです。

 先日、東京駅から熱海まで、「こだま」に乗りました。
新幹線って、なんとなく旅行に行く時に乗るようなイメージですが、その時の車内は何処を見渡しても、勤め人の姿でいっぱいでした。
ちょうど会社が終わる時刻でして、考えてみれば、新幹線で1時間、熱海だって十分東京の通勤圏内なんですね。
 スーツ姿の、さすがに年配の客が多いような気がしましたが、新聞をめくったり、居眠りをしたり、鞄の中から何か難しそうな書類を出したり、とにかくそこには、旅行の浮かれた気分なんて微塵も存在しませんでした。本当に、ただの日常。毎日繰り返されているであろう、当たり前の光景。

 ところが、ひとりだけ、通路を挟んで私の斜め前に座る青年、彼だけが、スーツケースを携えて、どう見ても旅行といった感じの様子でありました。

 旅行で新幹線に乗るとなれば、駅弁を買いたくなる、これ、極めて自然な感情です。
発車して間もなくすると、彼もまた、何処かで買ってきた弁当を広げ始めました。
 しかし、どう考えても、状況が宜しくないのです。
なにせ周りは、仕事帰りの、日常の中にいる連中ばかり。旅の気分とは温度差があり過ぎます。まして、連れがいるならともかくも、たったひとりの幕の内。多勢に無勢となれば、心弾む新幹線の駅弁も、可哀想に、なんだか通勤電車で蟹を頬張る蛮行に等しく見えてまいります。
 彼、大変気まずそうに、小さくなって、急いで弁当をかき込んでいました。

 私、これを見て、いいぞ、と思いました。
なに、君は間違っていない。だって新幹線だもの。
駅弁のひとつやふたつ、胸を張って食おうじゃないか。
そうして、実に美味しそうな顔をして、周りのおかしな連中に思い出させてやろうじゃないか。
ここは新幹線の中だぜ、と。

 私、弁当を買ってこなくてよかった、と思いながら、心の中で、頑張れ、とエールを送ったのでした。
   

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2007年07月04日

いいぞと思うこと テープの声

 例えば。
自分の携帯電話の契約内容について尋ねたい。
 問い合わせ専用の番号に電話しますと、何々についてのお問い合わせは1を、何々は2を押してください、なんてテープの声が流れます。
 言われた通りにその番号を押しますと、続いて何々は1を、何々は2を。
仕方がないから、やはりその指示通りに番号を押しまして、するとまた、何々は1を・・。
これがどんどん枝分かれして、一体いつまで続くのか、こっちはちょっと尋ねたいだけなのに、どうしてこんな回りくどいことをさせるのか、正直、この野郎、と思います。
 係りの者を呼び出しますのでしばらくお待ちください、なんて、ようやく終点に辿り着いたかと思いきや、只今大変混み合っております。しばらくしてからもう一度お掛け直しください。
 こういうの、本当に、やり場のない怒りを覚えます。

 以前、ミクロネシアで、飛行機のリコンファームをいたしました。
地図の上で見ますとちょっとおかしな気もいたしますが、あの辺は、れっきとしたアメリカ、イギリスの島々でして、土地の人達は当然、英語を日常的に使います。
 私、ただでさえ、こういう母国語の、流暢な英語が苦手なのに、まして相手の顔が見えない電話となれば、これは余計に厄介です。しかし、そうかと言ってオフィスに出向くのも億劫ですから、仕方なく、チケットに記された番号をダイヤルしますと、これがテープの声でした。

 このテープ、思ったよりも分かりやすい英語でしたので、こちらが聞き取れないということはありませんでしたが、問題は、その逆でした。

「Your flight NO. please」と、テープが尋ねますから、私、
「フィフティーファイブ」と答えました。
すると、相手は機械ですから考え込むこともないのでしょうが、やや間があって、
「OK シックスティーファイブ」と言うではありませんか。
ええっ、違うよ、って、私、慌ててもう一度、
「フィフティーファイブ」
すると今度は、
「OK セブンティーファイブ」
まったくもって、OKではないのです。
 これ、考えるまでもなく、私の発音に問題があるのでしょうが、しかしこのやりとり、何度繰り返したか知れません。
 舌を巻いたり鼻を鳴らしたり、ピィフティーファイブとか、フィフィティーファイブ、なんて、実に媚を売った、様々なフィフティーファイブを連呼して、お仕舞いには、自分でも想像もしなかった新しいフィフティーファイブが生まれたりして、ところが、融通が利かぬのは、血の通わない機械です。
「OK フォーティーファイブ」
 大体、ナントカティーファイブって、そう選択肢があるわけではないのに、機械はどうしても私のフィフティーファイブを受け入れてくれません。そこには何がしかの確たる理由があるようでして、フィフティーファイブって、結構奥が深いんですね。
 しかし、それにしましても、相手が人でしたら、普通はこんなに頑なにはならないと思うのです。
この電話、ショッピングモールの公衆電話から掛けていましたから、大変恥ずかしかったです。

 都内に住んでおりました頃、家の近くを、週に1、2度、ちり紙交換が回ってきました。
「毎度お馴染みのちり紙交換でございます」なんて、例の調子でやって来ます。
 私が住んでいたのは、荻窪という町でして、この界隈、狭い路地とアパートが密集する、世帯数が多い割には、昼間はほとんど人がいない、そんなエリアでありました。また、若者のひとり暮らしが多いこともあって、新聞なんかを取っている人間は、逆に少なかったのかも知れません。

 ある時、私が部屋で横になっておりますと、いつものように、
「古新聞、古雑誌、ボロ布等ございましたら、多少にかかわらず・・」
なんて、聞き慣れたテープの声がしてきました。
 ところが、ちょうど私のアパートの前を通り過ぎた辺りで、突然、そのテープの声がブチッと途切れて、朗らかな女性の声が一転、親爺のだみ声に変わったのです。
「どうなってるんだよ、冗談じゃないよ!もう2時間だぞ、2時間っ!誰もいないのかよ!いい加減にしろよ!」

 私、びっくりいたしました。びっくりすると同時に、大変おかしくなりました。
よっぽと古新聞が集まらなかったんだろうなぁ。
一言叫んでやらなきゃ、気が済まなかったんだろうなぁ。
 私、いいぞ、と思いました。
そんなテープを流してうろうろしていたって駄目だよ、おじさん。
そうやって、魂の叫びをぶつけなきゃ。新聞くれーっ、て。
血の通った熱い声を、生きた本当の声を、もっと聞かせてくれよ。

 私、新聞を取っておりませんでしたから、実際には何も協力出来ませんでしたが、心の中で、頑張れ、とエールを送ったのでした。

   

Posted by wajin at 17:51Comments(0)TrackBack(0)