2007年05月23日

Be here now

 映画「男はつらいよ」にこんなエピソードがありました。
 とらやの面々が、ハワイ旅行に行くことになります。おいちゃんもおばちゃんも、みんな初めての海外旅行ですから、楽しみで仕方ありません。ご近所との世間話にも、ついついこれが自慢まじりに口に上りまして、見ているこちらは何だか嫌な予感がしてまいります。
 案の定、どういう訳でしたか、寅さんのうっかりが原因で、これがおじゃんとなってしまいます。
何しろ散々言いふらした後のことですから、さあ、どうしよう、こんなに恥ずかしいことはありません。
 で、結局どうしたのかといいますと、出発の日、とらや一同は予定通りに店を閉め、カーテンを閉じた暗い家の中、みんなで身を小さくし、息を潜めて過ごしたのです。
 それから後はお決まりでして、「お前のせいだっ」なんて喧嘩が始まり、寅さんも負けずにこれに応酬するものですから、ヒソヒソが一転、ドタバタとした展開に。
 店の中から聞こえてくる物騒な物音に、とらやはてっきりハワイ旅行に出掛けたと疑わないご近所連中が、泥棒でも入ったのではないかと騒ぎ出し、お仕舞いには警察まで駆けつける大騒動。
そこで、ガラリと扉がこじ開けられて、面々の、何ともバツの悪い苦笑い、そんなエピソードであります。

 どうしてこんな話を書きましたかというと、私、自称旅好きではありますが、改めて考えてみますと、旅に出ていたという証拠が今ひとつあいまいであります。
 土産を買ってくるでもなし、土地土地のお箸の袋を集めている訳でもない、たまに写真を撮ったといっても、肝心の自分の姿が写ったものなどは滅多にありません。
 ちょこちょこと、仕事を休みにしては、旅に出ます、なんて言っているが、実は暗い押入れの中で息を潜めて、旅雑誌でも読んでいるのではないか、なんて疑われても仕方がないような気がいたします。
 そもそも、「旅行」と言わずに「旅」なんて、気取った言葉を使うところからして、怪しい。
自分でもそう思うのですが、やはり旅は旅でして、旅行ではないのです、なんてしつこく言えば言うほど、怪しい。

 あんまりこういうことを考えておりますと、その内、自分で自分が疑わしくなってまいります。
 旅から戻ると、ああ、夢を見ていたようだなぁ、なんて、いつでも思います。
さすがに、本当に夢だったのかな、と疑ったことはありませんが、これだって、いざまじめに疑ってみれば、夢ではなかったと言い切る自信もないようです。
 と、言いますのも、私、何事に関しましても非常に忘れっぽいタチでして、実際、以前訪れたことのある町に行きましても、自分が泊まった宿はおろか、その町並みさえも覚えていない、なんてことがしょっちゅうです。
 映画を見ても、本を読んでも、読んだ先から忘れてしまう。しかし、読んだことだけは覚えておりますから、人が集まって何かの時に、そんな話題になりますと、ついつい、ああ、読みましたよ、なんて言ってしまいます。
嘘じゃあありませんから、そう言って悪いこともありませんが、問題は、その内容をほとんど覚えていないことなのです。
読んだと言うくせに、その内容を知らない。ニヤニヤと、先程から相槌ばかり打っている。
相手の連中は、きっと私のことを、嘘つきか、下心のあるお追従と見て取るに違いない、そんな心配がいつでも頭をよぎります。
 人って、何かを成すよりも、成した記憶を大切にする、やはり高等動物なのです。

 悪く考えれば、脳軟化、よく言えば、Be here now。人間、今とここにしか生きられないという訳です。
まあ、それはどちらでも構いませんが、私の旅が、押入れの中の絵空事ではないことを、まずは自身に納得させるためにも、ひとつ、旅の写真を載せてみようかな、と思います。
 私、デジタルカメラを手に入れたのが最近のことですから、当然、こういうところに載せられる写真も最近のものしかありません。
 そういう限られた写真に関係した話となりますと、必然、限られたものとなってしまいますから、この際、話とはあまり関係のない写真を載せてみようかと思います。
 そうなりますと、これまでの話があまり意味を成さないような気もいたしますが、私、別段それを気にする所存もございません。






 

 

   

Posted by wajin at 11:44Comments(3)TrackBack(0)